顎関節症
顎関節症について

顎関節症とは、顎の関節やその周囲の筋肉に不調が生じることで、痛みや違和感、口の開けにくさなどの症状が現れる疾患です。
顎関節症の原因については、以前は「かみ合わせの悪さ」が主な要因と考えられていました。しかし現在では、「多因子病因説」という考え方が広く受け入れられています。これは、関節や筋肉に負担をかけるさまざまな要因が重なり、その負担が個人の耐久力を超えたときに症状が現れる、というものです。
主な要因として、以下のようなものが挙げられます。
解剖学的要因
顎関節や顎の筋肉の構造的な弱さなど
咬合要因
かみ合わせの不調和やバランスの乱れ
精神的要因
ストレスや不安、緊張状態の持続、気分の落ち込みなど
外傷要因
噛み違い、打撲、転倒、交通事故などによる外力
行動要因
日常生活における習慣や動作も大きく関与します。
- 歯列接触癖(TCH)、頬杖、片側でのかみ癖などの習癖
- 硬いものをよく噛む、ガムを頻繁に噛むなどの食習慣
- 歯ぎしり、睡眠不足、不適切な枕や寝姿勢などの睡眠環境
- スポーツや外的負荷のかかる活動
- 楽器演奏や発声など、顎を酷使する習慣
- 長時間のパソコン作業や緊張を伴う作業、人間関係によるストレス など
このように、顎関節症は単一の原因で発症するものではなく、複数の要因が複雑に関与して生じると考えられています。そのため、症状の改善には、それぞれの原因に応じた適切な対応が重要となります。
顎関節症セルフチェック方法
以下の項目に当てはまるものがないか、ご自身でご確認ください。
- 口を開けると痛い
- 大きく口が開かない(指が2〜3本入らないなど)
- 口の開閉時に『カクカク』『ジャリジャリ』と音がする
- 顎が疲れやすい、重い感じがする
- 側頭部や耳の周りにも違和感がある
これらの症状が複数当てはまる場合、顎関節症の可能性があります。
一時的な症状であれば様子を見ることも可能ですが、痛みが続く場合や口が開きにくい状態が改善しない場合は、早めに歯科医院での診察をおすすめします。適切な診断のもと、症状に応じた治療を行うことが大切です。
顎関節症の分類
顎関節症は、症状の原因や起こっている場所によって、いくつかのタイプに分けられます。主に以下のように分類されます。
Ⅰ型 咀嚼筋痛障害(筋肉に原因があるタイプ)
顎を動かす筋肉に負担がかかることで、痛みやだるさが生じるタイプです。最も多くみられるタイプで、食いしばりやストレスなどが関係することがあります。
Ⅱ型 顎関節痛障害(顎関節に原因があるタイプ)
顎関節周辺の靭帯などに炎症が生じるタイプです。捻挫に近いものになり、大きな口を開けたり、硬いものを噛むなどの強い衝撃が加わったりすると痛みが生じることがあります。
Ⅲ型 顎関節円板障害 (関節の動きに関係するタイプ)
顎の関節内にある関節円板(クッションの役割をする組織)の位置がずれることで、口の開閉時に『カクッ』と音がしたり、引っかかりを感じたりするタイプです。口が開きにくくなることもあります。
Ⅳ型 変形性顎関節症(関節自体の変形や炎症によるタイプ)
関節そのものに負担がかかり、骨の変形や炎症が生じることで、痛みや動かしにくさが出るタイプです。顎を動かすと「ジャリジャリ」「ゴリゴリ」と音がします。
Ⅴ型 その他
上記に分類されない、心身医学的な要因や慢性的な違和感を伴うものです。
このように、顎関節症は単一の病気ではなく、筋肉・関節・その両方の問題が組み合わさって起こることもあります。そのため、症状に応じた適切な診断と治療が重要です。
顎関節症の治療法

顎関節症の治療は、「可逆的治療(元に戻せる治療)」を優先することが大切です。そのため、歯を削る・被せ物を行う・歯列矯正を行うといった、元に戻すことができない「不可逆的治療」は、顎関節症の初期治療としては推奨されていません。可逆的治療を行っても改善が認められない場合は、歯を削るなどの治療を選択します。
マウスピースの装着
一般的には、スプリント(マウスピース)を用いた治療を行います。これは歯列に装着する装置で、主に就寝中に使用することで、無意識の食いしばりや歯ぎしりによる顎関節や筋肉への負担を軽減します。

セルフケア
顎関節症の改善には、患者さまご自身によるセルフケアが非常に重要です。症状の段階に応じて適切に行うことで、回復を促進し再発予防にもつながります。

急性期(痛みが強い時期)
- 無理に大きく口を開けない
- 硬い食べ物や噛みごたえのある食品は避ける
- 急な開閉口や大きなあくびを控える
- 鎮痛薬を内服し、安静にする
- 食事は小さく切り分け、顎への負担を軽減する
回復期(痛みが落ち着いてきた時期)
- 入浴時や温タオルなどで患部を温め、血行を良くする
- 顎や咀嚼筋をやさしくマッサージする(強く押しすぎない)
開口訓練(リハビリテーション)
痛みが軽減してきた段階で、無理のない範囲で口を開ける練習を行います。
下の顎を前に出してからゆっくり開口し、その状態を数秒保った後、ゆっくり閉じます。これを1日数回繰り返すことで、関節の動きと筋肉の柔軟性の改善が期待できます。
※痛みが強い場合は無理に行わず、歯科医師の指示に従ってください。
生活習慣の見直し(行動療法)
- 歯の接触癖(TCH)を意識して減らす
- 頬杖やうつ伏せ寝など、顎に負担のかかる姿勢を避ける
- 長時間のスマートフォンやパソコン作業時の姿勢に注意する
- ストレス管理を意識する
このように、顎関節症は適切な治療とセルフケアを組み合わせることで、多くの場合改善が期待できる疾患です。症状が続く場合は、早めに歯科医院へご相談ください。